大学を出て就職し、営業職についたことで私のヒゲ受難が始まります。
私が就職したのは金融業というお堅い仕事なので、身だしなみが整っていることは絶対の最低条件です。
スーツやシャツの色・ネクタイの柄までルールがあり、朝礼で服装チェックがあるような職場でした。
多くの職場はそこまで極端ではないかもしれませんが、人と会う仕事や食品などを扱う仕事なら清潔さが求められるのは当然でしょう。
ここで私のヒゲが問題となりました。
上司から面と向かってヒゲを注意される
ある日上司に呼ばれ、「お前さ、もうちょっとちゃんとヒゲ剃ってこいよ。目立つよ」と真顔で注意されてしまいました。
もちろん、ちゃんと剃っているつもりなのですが・・・。
それまではコンビニで売っているようなT字カミソリを使っていましたが、就職を機にブラウンのちょっと高い電気シェーバーを買いました。
確か5万円くらいしたと思います。
毎日使うものだし、仕事にも関係があるということで少々高くても間違いないものを買おうと思ったわけです。
家の洗面所で見ると綺麗に剃れたつもりでも、会社に行ってトイレで鏡を見ると思ったより剃り残しが目立ちます。
おそらく照明の違いでしょう。
自宅の洗面台は白熱電球の黄色がかった光、会社のトイレは蛍光灯の白い光もしくは窓から差し込む太陽光です。家の鏡に映った自分の顔は本当の姿ではなかったのです・・・。
そのため私は出勤してから会社のトイレでヒゲを剃ることにしました。
ヒゲソリしている姿を見せることで、ちゃんと身だしなみに気をつけてますよと上司にアピールする狙いもあります。
さすがは高級な電気シェーバーだけあって血が噴き出るようなことはなかったのですが、それでも白い肌と青い剃り跡のコントラストを打ち消すことはできません。
どれだけ時間をかけてシェービングしても、根本的な解決にはならなかったのです。
毎朝3回のひげそり
毎朝のヒゲ剃りは20~30分にも及び、何度も何度も同じところをシェービングしていました。
顔を洗う前にまずはひと剃りし、顔を洗った後でも再度カミソリを当て、会社へ行ってからもトイレでシェービングし・・・もはやヒゲを剃るために生きているような気さえしてきます。
剃っても剃っても青さはなくならず、シェービングのしすぎで赤く肌荒れして見るからに汚い顔になってしまいました。
肌荒れの赤みとヒゲの青さが相まって、頬からあごにかけて紫色になっています。
ここまで来ると上司はもう何も言わなくなっていました。
「あいつはそういう体質なんだから注意しても治るものではない」と理解したのでしょう。
しかし、内心はきっと私の顔を見て汚いと思っているに違いない・・・そんな被害妄想とも言える状況で、誰かと話す時にも手で口元を覆ったり、うつむいて顔を隠したりすることが多くなっていました。
商談の前には必ずトイレで身だしなみを確認するのですが、その度に自分の紫になった顔を見て嫌な気持ちになります。
鏡が嫌いで、そこに映る自分が嫌い。生まれ変わりたい、消えてしまいたいとまで思っていたような記憶があります。
今考えるとかなり思いつめていてちょっと危ないですね・・・心の病気だったのかもしれません。
特に疲れてもいないのに朝起きるのが辛くて、人に会いたくないなあと思っていたのです。
そんな気持ちや体調で毎日過ごしていて仕事に身が入るわけもなく、営業成績も振るわずに相当苦しんだ期間でした。